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英雄クロニクル(AUC)での事をつらつら綴るだけの場所
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閊える心のその先は

痛む胸、閊える心
詰まる情のその先を
未だに見出せぬまま
自問自答す

自部隊の神様担当、氷雨がちょっとRPで面白いことになりまして。
今北産業すると

氷雨の神様が
人の子に
恋をした

的な。
そんな神様、自分の心にはまだ気づいておらず。
痛む胸と閊える心を抱えて首を傾げる。そんなお話です。


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「…………斑雪や」

「御傍に」

 人の子には見えぬよう、姿を隠した氷雨が煙管を片手に眷属神の名を呼んだ。
 名を呼ばれた眷族神斑雪(はだれゆき)は、氷雨の傍に姿を現す。
 斑雪が跪くのを見届けてから、氷雨は重い口を開いた。

「のう、斑雪や。教えて欲しいのじゃ。
 最近……心の臓もあらぬここが、酷く痛む。軋むように、詰まってしまうのじゃ。……斑雪、ぬしならその理由が、わかるかえ?」

「……私(わたくし)は貴柱(あなた)様より生まれいでし存在。しかしながら、貴柱様自身ではありませぬ。望む答は紡げませぬでしょう」

「意地の悪いことを言いよる。時雨ならば、心配をしてくれるというに」

「時雨は、貴柱様と対を成すよう生まれいでし眷属刀の神。貴柱様と気概を共にするもの。
 しからば、意識を同じとするのは当然の理(ことわり)でありましょう」

「ぬしはほんに、返事も答も堅苦しいのう」

 煙管に口をつけ、嘆息をしたのちにそこから煙を吸い込む。
 氷雨がふうと大きく息を吐けば、そこに吐き出されるのは紫煙ではなく霧氷のそれ。
 キラキラとした極細の氷が大気へ舞い、そして儚く溶けていく。

「私は、貴柱様を押し留める為に生まれいでし眷属でありますから、貴柱様と意見が割れるのもまた当然の理で御座います」

 氷雨の方へ手を差し出し、一礼をする斑雪。
 その眷属神を一瞥し、氷雨は煙管の先をそちらへ向ける。
 じゅう、と音を立てた煙管を受け取り、斑雪は煙管を仕舞いこんだ。

「しかしながら……」

 再び氷雨の前に跪きながら、斑雪が言葉を紡ぐ。

「恐らくならば、私は貴柱様のその胸の閊えの元、判り得るやもしれませぬ」

 斑雪の言葉を聞き終えた途端に、氷雨は表情を明るくし眷属神を嬉しそうに見下ろした。

「それは真かえ?ああ、やはり。ぬしは我と違い防具に宿る神であったな。その防具は郁が常々身に付けておるもの。
 ぬしの方が我よりずっと郁たちに近いからの、ずっと人の子の傍におるからの、知っておると思うておったのじゃ。
 嗚呼よかった。これで胸の閊えがとれると思うと既に気分も幾ばくか晴れるというものよ」

 急に饒舌になった主を上目に見上げ、斑雪はふっと小さく息を吐いた。
 そして、厳しい目つきを氷雨に向け、淡々と言葉を紡ぐ。

「判り得るやもしれぬと言いましたが、それを貴柱様にお教えするとは一切合財言ってはおりませぬぞ?」

「……は?なにゆえじゃ」

「……今の言葉が全てでございます。何事も、御自分で理解してこその真。他者からの言葉のみで物事全てが万事理解できるものではありませぬ。
 氷雨様。
 貴柱様は何故そのような心が芽生えたのか、今一度御自分の頭でお考え下さいませ。……あの者達と出会うてからでございますでしょう?貴柱様の心がよく動くようになりましたのは。そこから、考えるのでございます」

 斑雪が静かな言葉で告げるのを静かに聴き、氷雨は頬杖をついて考え始める。
 そう、「あの者達」のことを。

「……あの自警団という人の子の集まりの中の中心を担っておる人の子ら。斑雪は郁と共にあるから我よりよう知っておろうな。
 サクヤ……ヒロヤ……オトヤ……。
 分かるであろう?奇跡の権化、神へ連なるもの。おなごの腹を借りずおなごの股から生まれたわけではない、我らと性質を同じとする者たちよ。
 ……しかし、あの子らは、人の子じゃ。肉を纏い血を巡らせ、我らと違い人の道を往く者。我はな、彼らが眩しゅうて敵わぬ。
 我らと生まれを同じくして、我らと真逆の道を往く者。じゃからこそ、我は彼らを愛いと思うのじゃ」

 ぼんやりと脳裏に浮かぶ、輝く魂を持つ人の子らに思いを馳せながら、氷雨は続ける。

「郁は、紫苑の魂を持つ。じゃから、愛いと思う。それにあの人の子は我ら人成らざる者を魅了する力をもっておる。それもあろうな。
 ……それとは別に……あの一族で唯一、我を母として慕ってくれよったから、殊更に惹かれるのじゃ。この氷と雪の神をつかまえて「母」と呼ぶのじゃぞ?自分の母はちゃんと生きておろうに。……そんな人の子が可愛くないわけなかろう」

 自分の胸元を撫でながら、母と慕う少女へ思いを馳せれば、温かい気持ちになると告げる氷雨に、斑雪は跪きながら進言した。

「しからば「あの」人の子は……?如何なる道理で御気に召したのでございましょう?」

 「あの」人の子のことを言われた氷雨は、はたと自身の動きを止め、僅かに瞳を揺らした。

「……老将、ゴウ。……、我に連なるような謂れもあらぬ。……郁のように、永く見守ってきたわけでもない、唯の人の子」

「そう、唯の人の子でございます。十把一絡げ、儚き人の子の一人に御座いますれば。
 本来、貴柱様がそうも目を向け、心を砕く者ではありますまい。
 しかし、いたく御気に入りの御様子、ひと目でわかります。さて、如何なる道理で?」

 頬杖をついたまま、氷雨は逡巡する。
 さて、どうしてだろうか。
 呟いた声は響くことなく儚く消えた。

「……我が惹かれる理がないのぅ。しかし、現に我は惹かれておる。さて、どうしてじゃろうか。わからぬのじゃ」

「問いの角度を変えましょう。貴柱様は何時から、そのように胸が閊えるようになりましたでしょうか?」

 いつから。
 そう問われ、氷雨は尚逡巡する。

「何時から……さて、いつからかの。サクヤ達と出会い過ごしておった頃には、こうはならなんだ。
 郁が紫苑の呪縛を解こうとせん時にも、ここが痛むことはついぞなかった。しからば、いつからじゃ?
 …………ゴウ。……そうじゃ。ゴウと出会うてから、じゃ」

 自分の胸元に手をやり、氷雨がはっとした表情で斑雪を見やる。
 静かに跪いたまま、斑雪は答えない。

「……ゴウと共におると、楽しいと思うのじゃ。ゴウに笑いかけられると嬉しいしの。
 あの手で髪を梳かれるのも悪くない。……褥を共にするのも、あやつならば良いと何故だか思えた。じゃから、そうした。
 ならば、何故我の胸は痛むのじゃ?」

「……共におる時に痛むわけではありますまい?貴柱様がそうやって胸に手をやり溜息をつかれますのは、ゴウ殿と別れてより後でございます」

「なんと。そこまで見られておったのか。……言われてみれば、そうじゃ。あやつと離れればここが酷く痛み、閊え、詰まる。憂鬱な気分というやつになるの。
 ……のう、斑雪。我は、ゴウと別れて……ゴウと会えなんで、「寂しい」と思うておるのか?」

「十中八九、恐らくは。会えぬ時に胸が痛むのは「寂」の心でありましょう。人の子の言葉を借りるのならば「もっと一緒にいたい」「離れたくない」「寂しい」……「会いたい」。
 そういうことでありましょう」

「そうか。そういうことか……理由はわからぬが、我はゴウを気に入った。心を痛めるほどに。じゃから、離れるとここが痛み、寂しいと泣く。そうか、そういうことじゃったか。
 ……斑雪。ゴウに会うてくる。留守を頼んだぞえ」

「仰せ付かりまして御座います。どうかごゆるりと」

 合点のいった氷雨が立ち上がり、纏った布をふわりとはためかせて斑雪へ笑みを向ける。
 次の瞬間には神の姿はもうなく、ふわりと霧氷が舞うばかり。
 ゆっくりと立ち上がった斑雪が、主神の行く末を見送るように頭を垂れた。

「さて、理由がわからず惹かれ気に入る……。そうして胸が閊え苦しく痛む。……人の子の世ではそれを「恋」と呼ぶのでありますよ、あね様」

 もう其処にはいない神に向かって呟いた言葉は、誰に聞かれることもなく、霧氷と共に消え去った。



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