「ダンジョンへ水着で行くとね、良いものが拾えるジンクスがあるんだって」
イズレーンの街中へ買出しにでかけた郁が、荷物持ちになってと連れ出したサクヤに向かってふいにそう切り出した。
「ダンジョンで水着?眉唾もいいところだねそれ。ダレが広めたんだろな」
食料や日用品の詰まった袋を数個、腕からぶら下げながらサクヤが怪訝な顔をし、大げさに肩を竦める。
「うーん、でもある意味理に適ってると思うなー。防御面のことはさておき、ダンジョンって結構狭いし薄暗いし水源も多いからさ、鎧な格好だと動きづらいし?
それに泳いでわたることもあるから布面積多いとそれからの戦闘が動きづらいし体冷えるし?って思うとほら」
屋台で買った焼き饅頭を食みながら、郁がサクヤを見上げて指折り数えながら考察をする。
いわれて見れば確かにそうかも。
サクヤは手に持っていたアイスコーヒーをストローから吸い上げ、うーんと唸った。
「いわれてみれば。だからみんなあんな格好でダンジョンの入り口に集合してたりしたんだ?
よっぽど腕に自信がある奴じゃないとなかなか出来ない芸当ではあるよな」
巡りを認識しているものたちが、所謂期末と言われるその巡りの終盤にこぞってダンジョンへ潜り込む慣習があるのを郁もサクヤも知っている。
その中で知る「英雄」常連の兵(つわもの)が、皆こぞって露出度の高い衣装でその地に降臨するのも何か理由があるとは思っていたが、そういうことだったのか。
嘆息とも苦笑ともつかない複雑な表情でサクヤが口を開いた瞬間、郁は何かを思いついたようににんまりと笑った。
サクヤは郁のこの表情に嫌な覚えがあった。
何かしら無理難題を思いついた時や、突飛もない考えを実行に移そうとした時によく見せる表情で、ある。
「でも折角なら、私達も試してみない?そのジンクスとやらが本当なのか」
にんまり笑顔のまま小首を傾げる戦巫女へああやっぱりかと乾いた笑みを向け、サクヤが視線を泳がせる。
「えー……、でもあんな格好でダンジョン闊歩するの、危なくないかなぁ」
「だーいじょうぶ!殺られる前に殺れ!トラップは避ければ発動することはない!」
サクヤの手を取り、通りの先にある装備と衣服を扱う商店街を指差して郁がさらに笑みを深くする。
こうなるともうこのじゃじゃ馬お転婆娘は言うことを聞かない。自分の我を通そうとする。
経験上それを知っているサクヤはふーっと大きく嘆息してから、不承不承で頷いた。
「わかった。でも一緒に上着も見繕うのも約束して。さすがにダンジョンは冷えるからね」
「よっしゃあ了解!あ、サクヤが見繕ってね水着!とびきり可愛いやつだよ?」
「え、難易度高くないそれ?」
(というか……郁のそんな危なげな姿を見せ付けられて俺、やり過ごせるのかな……)
笑顔で駆け出す郁に手を引っ張られながら苦笑したサクヤは郁に見付からないよう一瞬、遠い目を空へ向け、ぽつりと胸中で小さく呟いたのだった。
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