散る火花
駆ける戦陣
些細な違和感
翔ける黒き翼
マッカの地で起こった遠征のお話。
来期新キャラお披露目の為の前哨戦ともいえるSSかな。
[0回]
赤の国において、蒼の大地が広がる山岳地帯。
異国のその地においても部隊長として指揮をとる郁が、刀を鞘へと納めながら天を仰いだ。
「なんか……変な気が、混ざってる気がする……」
誰に向けるでもなくぽつりと呟いた言葉が郁の耳にいやに残る。
巫女の生まれ故か、こういうときの第六感と呼ばれる類の力は、恐らく人より持ち合わせていると郁も自負しているだけに、その不安は胸中をざわざわとゆっくり侵していった。
「少し、森の方を見てくる。あとお願い」
部隊の人間に声をかけ、応の返事を聞いてから、郁は背に生やした黒い翼をはためかせて森の方へと翔けていく。
「氷雨」
空を翔けながら手身近に神の名を呼ぶ。
何時なん時でも、呼べば傍に顕現を。そう言っていた神はふわりと郁の横に顕現し、長い髪を靡かせてころころと笑った。
「そんなに慌てて何処へいくえ?」
「何か、変な気配を感じて。ね、氷雨。今この地に、私の部隊と敵部隊の人間以外に何か居ない?」
「聡いの、郁は。ふ、ふ……嗚呼、確かに。此れは……なにやら迷い子が潜り込んでおるの」
郁の問いかけに、ころころと笑って口許を着物の袂で隠したままの氷雨が、小さく頷いて答えを示し、もうええかの?と呟いてその場から姿を消す。。
自身の勘が当たっていたことに小さく嘆息し、郁は着地点を探すように眼下の森を見下ろした。
原住民か、別部隊の迷い人か。
はたまた、異世界よりの流入者か。
戦火渦巻くこの戦いの地に迷い込んだのであれば、早々に保護をしなければ、その人間の命運はそこで尽きてしまうだろう。
少し開けた場所を見つけた郁は、目を細めてそこへ一気に下降を始めた。
腰に携えた刀に手をかけ、細めた目を地面へと向ける。
まさに今、件の迷い人へ手をかけようとしている人影がうっすらと見えたのを皮切りに、郁は戦巫女の表情でその地へと勢いよく翔け、刀を抜刀して叫ぶように口を開いた。
「間に合ってよー?目覚めの悪い結果だけは勘弁だかんねっ!」
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