見守るだけで、いいと思った。
行く末を見守りつつ、道を完全に塞ぐ邪魔者だけを排除すればいいって。
でもね
感情をもった生き物っていうのは得てして強欲なものでね。
もう一度君の目線が、笑顔が、欲しくなっちゃった。
3年と少ししか生きられない君で、いいと思ってた。
精一杯を生きる君の生き様を、眺めているだけでそれでいいって。
でもね
もっと沢山生きてほしい、もっと沢山愛されて欲しいって、やっぱり強欲な生き物は、そう思っちゃうんだよ。
赤い獣人と寄り添いあって眠る少女を見下ろし、白髪の少年が小さく微笑んだ。
そっと少女の艶やかな髪の毛を手櫛で梳き、幼子にするように優しく撫でる。
くすぐったそうに小さく身じろぎながら、少女はますます獣人へとその身を寄せた。
恐らく、獣人に撫でられたと思ったのだろう。
彼のことを信頼し、愛している故の行動だと思うととても微笑ましく、同時にほんの少しだけ、それが羨ましい。
少年は、少女にしたように慈しむような手つきで、眠る獣人の額も優しく掌で撫ぜた。
柔らかな獣特有の手触りが心地よく、その下に流れる血の温度が手をじんわりと温めていく。
少女のように小さく身じろいだ獣人がうっすらと双眸を開き、寝ぼけ眼で少年を見上げてくる。
獣人は、やはり勘が鋭いらしい。
小さな苦笑を口許に浮かべながら、少年は立てた人差し指をそっと獣人の口許へ当てながら、少女を起こさぬよう囁く声で獣人に告げた。
「……今日のこの出来事は、一夜の夢。君が見た夢物語の一場面。そう、今のこの会話も、夢の中のお話だよ。さぁ、ゆっくりお休み、未来を担う子。
来るその日が朝を告げるまで」
歌のように、詩のように。
不思議そうな目を向ける獣人の耳元で囁き、その目許を手で覆う。
柔らかなテノールの声音を彼だけへと向けて安眠の術をかけると、そこにはもう双眸を閉じて眠る可愛い男女が一組。
そう、これでいい。
まだ、気づかれていい時ではない。
「僕はね、君の……君達の幸せを、願っているんだよ。それこそ、静彗ちゃんや氷雨さまと同じくらいに。だからこそ、他の皆が出来ないことを、やらない役を、僕がやろうと思う。
そのことで、君達は僕を嫌うかもしれない。憎むかもしれない。
でもね、僕は君達を愛しているからこそ、そうしたんだって……いつかわかってくれるといいな」
眠る二人へ語りかけ、最後にもうひと撫でとばかりに其々の頭を優しく撫ぜ、白髪の少年は柔らかな笑みを浮かべた後に、闇夜に溶けるかのようにフッとその姿を消したのだった。
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