揺らめく炎
程よい疲労
労う仲間
こっそり始まる女子の会話
ちょびっとだけサクヤも登場。
郁とメイが遠征帰りにこっそりと始める女子っぽい会話。
掌編なので短いですが一応折りたたみ。
~作業時BGM~
【それっぽく歌ってみました】邦楽BadApple!!-傷林果-【杏ノ助】/きょーのすけ
[0回]
「サクヤの好きなところ?」
他陣営への遠征が無事大勝利で終わり、帰路につく最中の夜半。
ベースキャンプとしている森の中の開けた場所。その揺らめく火の前で郁は突然の問いかけに首を傾げた。
「そうにゃ!郁にゃん、人魂のタマにゃんには毎日のようにノロケをいってるらしいにゃ?メイもそういうの聞きたいにゃ!」
携帯食である缶詰を食べながら、遠征メンバーとして共に戦ってきたメイが猫姿のまま、その長い尻尾を一度ゆらりと大きく動かした。
「うーん……そうだなぁ……」
同じく缶詰をつまみながら、郁はちらりと火の更に奥にいる人影へ視線を向ける。
赤い毛皮と毛並みを持った狼獣人である当のサクヤが、他の遠征メンバーと共に談笑を楽しんでいる。
郁が見つめているのに気づくと、彼は淡く微笑んで郁へと軽く手を振った。
それに応えるように郁も微笑みを返し、手をそっと顔付近まで掲げる。
「こういうのは本人の居ないところで話すべきなんだけどね」
郁はそうメイに前置きをしてから、そっとその耳に顔を近づけて内緒話をするように声を潜めた。
「全部。っていうと、つまんないでしょ?
……サクヤのね、あの目が好き。真っ直ぐ前を見据えて絶対に逸らさないあの目。
サクヤの手が好き。大きくて、でも獣らしく柔らかくて、緊張するとすぐ湿っちゃう肉球とか……犬みたいな形のあのちょっと鋭い爪も。
サクヤの毛並みもね、好き。柔らかくて、でも時々犬っぽい硬い毛も混じってて。ふわふわと撫でたり梳いてあげるの、幸せな時間なんだよ。
……、サクヤの声が好き。優しくて耳に心地いい少しだけ低い声。でもね、真剣な時にはぐっと低くなるあの声も、好き。本人はやだって言ってるけどね。
サクヤの耳も好きだな。私は人間で、人の耳しかもってないから、あのピクピク動かせられる柔らかい手触りの耳が羨ましくて好き。ずっと触ってたいくらい」
「にゃっはー。結局郁にゃんはサクヤにゃんの全部が好きなのにゃ?なかよしさんにゃ!」
「ふふ、最初に言ったでしょ?全部って。それにね、恋愛には名言があってねメイちゃん。『惚れた人がその人の理想』ってね。ああでもやっぱり一番好きなのは戦ってるところかなぁ。元々出会いも戦場だったし、サクヤが斧を使って舞うように戦う姿はね、綺麗なんだよ。だから、大好き」
「うんうんにゃ。メイが見てても、あのいっとうめーそっからの柄でこうげきーかーらーのーにとうめーって流れるどうさすごいとおもうにゃ!」
「でしょ?最近すごーくつよくなってきてて、更にかっこよくて強いなって。あ、あとねー。有言実行してくれるところも大好きよ。……苺大福ね、絶対作ってよって言ったら本当に作ってくれるんだって。一体どんな大福になるだろうね?今から凄く楽しみ」
「にゃ?大福にゃ!?メイ大福の皮だいすきにゃ!出来上がった暁にはメイにも皮をもぐもぐさせてにゃ!」
「猫って変なものすきだよね……。ふふ、わかった。じゃあ、今度私がまた帰ってくるときにはメイちゃんの分の大福も用意してもらおっか。……それまで、メイちゃんも巫女屋敷での留守番お願いね?」
「にゃっはー!りょうかいしたにゃ!楽しみにまってるにゃ!」
巫女屋敷所属の巫女である遮那々が邪神に魅せられ敵となっている今、いつもより長く巫女屋敷を空けなくてはいけない郁だったが、心強い留守番がまた一人見つかった。
留守番のお駄賃は大福の皮で。それも人様から貰うものだから自分の懐は痛まない。
何だかおかしくて、見つめあったままくすくすと笑いあう巫女と猫。
その二人の様子を、揺らめく炎を通してそれとはなしに見つめていたサクヤが、思わずその顔を片手で覆って少し俯いた。人知れずその顔は赤面している。
(全部聴こえてるよ君達……って言ったらどうするんだろう)
遠征仲間が疑問符を浮かべた顔でサクヤを見つめているが、今はそれどころではない。
ちょっと待ってというかのように片手の平を仲間へ見せて制し、サクヤはたっぷりと密かに悶えたのだった。
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